お接待所坂本屋が担う地域的な役割

2022.07.19 研究最前線

兼子 純/法文学部 教授
石黒聡士/法文学部 准教授
西岡寧々・堀江貫太・須藤 恵・松崎竜大/法文学部 学生

お接待所坂本屋が担う地域的な役割

 愛媛大学法文学部地理学教室では、令和3年度「地域文化実験演習」において、「松山の南北軸」を対象地域とした調査実習を実施し報告書を作成した。重信川流域を松山平野の東西軸としてとらえるなら、松山の南北軸に相当するものの一つは、四国遍路の「遍路道」であろう。
 調査グループの一つが、旧遍路宿の「坂本屋」を研究対象として、「松山市久谷地区におけるお接待所坂本屋が担う地域的な役割」と題した調査研究を実施した。久谷地区は、現在では松山市郊外の農山村地域にあたるが、浄瑠璃寺と八坂寺という二つの札所を有し、国道33号線の開通までは土佐から松山城下に至る主要街道に位置する地域であった。このように久谷地区は豊富な歴史性と文化資源を有するものの、これまで学術論文や大学との協働で光が当てられてこなかった地域でもある。
 そのような地域に立地する「坂本屋」での調査から、お接待所の果たす地域的役割が明らかになった。第1に、三坂峠越えの難所を越えてきた遍路者へのお接待という本来の役割である。坂本屋を入り口として、遍路者たちは札所の連続する松山平野へと下っていく。そこでの情報交換や住民との交流は、疲労の蓄積している遍路者にとって癒しとなるであろう。第2の役割として指摘できるのは、坂本屋は地域住民の交流の場となっていることである。初期にお接待を始めたのは坂本屋周辺の住民が中心であったが、次第に誘い合わせや活動自体に惹かれる参加者によって他地域からも坂本屋の活動に加わるメンバーが増加した。このように、お接待活動を起点として、遍路道やお接待所を通じた地域間のつながりを強化する役割を坂本屋は果たしている。

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